早朝タコスパーティ


この間の日曜日、友だちの彼氏の家のタコスパーティにお呼ばれした。

朝8時半に集合して、9時からタコスを食らう会である。しかも、友だちのタコス屋を呼んで、という本格タコスパーティである。私の中でタコスはだんとつで「夜食べるもの」というイメージだったので、日曜の朝からタコスを囲む会をすると聞いてちょっと面食らった。しかし、家についてもっとびっくりしたのはタコスパーティに向けて着々と準備が進んでいたことである。メヒコの人はのんびりしているイメージがあるし、実際にのんびりしているのだけど、こういうことに関する手際の良さは日本人の比にならないと思う。

道端にプエストと呼ばれる屋台が毎日路上にびっしりと出ているのだが、それらはあくまでも仮設で夕方にはきれいさっぱり片づけられているのだ。緑(なぜかだいたい緑)の鉄の棒を組んで骨組みをつくり、シートやらをかぶせてたちまち屋台が出現する。そこに、それぞれの屋台ごとに服やら、靴やら、DVDやら、リモコンやらそれぞれ所狭しと並べられてあっという間に店が出来上がる。それを毎日繰り返しているのだからすごい。毎日同じ場所に同じ屋台が出現するから一期一会というわけではなく、お気に入りの店ができたら毎日通うことだってできる。

そういうところに見るメヒコの手際よさをこのタコスパーティの準備に垣間見た気がする。話がそれたけど、そう、タコス。

続々と搬入される素材の量にもびっくりした。トルティージャの数も半端ではない。直径10センチくらいのものが30センチくらいに積み上げらて、それが4列くらいあった。寸胴鍋の中では5時間も煮込まれているという5キロもの肉がでーんと待ち構えているし、その横には「コンソメ」という名前のスープも控えているらしい。友だちの彼氏はなんと9人兄弟で、お姉さんを中心に準備が進んでいく。タコスの具が火にかけられたかと思うと、トッピングのワカモーレやサルサ、赤カブがその脇でじゃんじゃん出来上がってきて、なんだか、家の中にいるのにキャンプをしているみたいで楽しかった。お姉さんだけじゃなくて、男の兄弟たちもみんなチャキチャキと動いている。

私が単に傍観者なのか、ゲストだから手伝わなくていいように気を使ってもらっているのか(たぶん両方)、本当に「みるみる出来上がっていく」様子を目の前で見るのはなんとも気味がよく、すごいなぁ、と素直に感心してしまう。そんな風にのん気に過ごさせてもらっていると、次から次へと兄弟が表れて、紹介されて、忠犬ハチ公の話などで盛り上がっていると、いつの間にかすべての準備が整ったらしく、タコスが配られだした。

うわ!!!

タコス!!!

家の台所にいるはずなのに、屋台で食べるタコスが目の前に。しかも、大盛り。お皿にもびっちり。そしてこのタコス、めちゃくちゃおいしかった。お世辞ではなく、オアハカに来て一番おいしいタコスに出会ったと思った。グアダラハラ時代は、おいしいタコス屋さんがあったけど、オアハカはタコスよりもトラジューダとかの堅いトルティージャ生地の料理が多い気がしていたので、このホワホワのやわらか生地のタコスを久しぶりにほおばって、にやにやが止まらなかった。そして、本当においしいものを食べた時には「うまい~、おいしい~」と日本語が口を突いて出る。

みんなが食べ始めてからも、続々と兄弟姉妹やらその子どもたちなどいろいろな人がやってきてはタコスをみんながほおばっていく。友だちの彼氏は、上から6番目らしいのだが、兄弟の中のムードメーカーなのか、ものすごい勢いでみんなを仕切ってくれる。

「食え食え~~!!」

とあいたお皿を持っている人を見つけては、

「何個??」

と聞いて、「もういい」と言われても「そんなわけないやろう!!まだ4個は食えるはずや、ほら4個!!」という調子で新しいお皿を手渡してくれるのだ。その強引さは、もはや、おばあちゃんちに行ったときの気分である。とても好意に満ちていて、手渡されたタコスに思わずほっこりしてしまう。

この日は、お父さんとお母さんは用事があったので来ていなかったみたいだけど、こうやって成人してから兄弟姉妹が集まってわいわいする習慣はとてもすてきだな、と思う。メヒコの人たちは、基本的にとても家族が近しい存在でお互いが近くに住んだり、集まったりということは普通のようだけど、友だちやその他の人もこうして気軽に招き入れてくれる。アミーゴの国と呼ばれる所以かもしれない。

その場に居合わせて、ふと日本のことを思ったら、兄弟姉妹や親せきが一堂に会するのは、盆や正月、あるいは冠婚葬祭ばかりだなあということに気がつく。兄弟親戚が離れて暮らしたり、核家族化が進んでいたりするからというのもあるけど、こんな風にもっと頻繁に気軽に会ってもいいのになと思う。日本では朝9時からタコスパーティは開催できそうにないけど(そんなことをしたらお母さんたちはノイローゼになってしまうかもしれない)、お昼12時から手巻き寿司パーティくらいならできるんでないか。もちろん、男兄弟も率先して台所を仕切ってくれるとなお素敵だ。



終わって家に着いたらまだ11時半だった。さすが、早朝タコスパーティ。なんてすばらしい一日の始まりなのだ。ごちそうさまでした。


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