屋台


単刀直入に言うが、屋台はいい。

メヒコには、夜だけ出現する屋台もたくさんある。グアダラハラに住んでいたころは行きつけのタコス屋さんがあった。このタコス屋さんも夜の8時か8時半くらいから開店する屋台で、仕事の終わる時間が遅かったので「ちょっと一杯」ならぬ、「ちょっと一個」ひっかけていこう、というわけでしょっちゅう通っていたというわけだ。オアハカに来てからは、まだ行きつけの屋台はできていない。お昼間によくいく屋台はあるけど、夜は出歩いていないのでどこにおいしい屋台があるのか知らないのだ。

この間、友だちに「オアハカで一番おいしいトラジューダ屋さんに連れて行ってあげる!!」と連れてきてもらったのがここ。トラジューダはオアハカの名物の食べ物で、でかいトルティージャ生地にいろいろ具が盛られて焼かれる食べ物だ。チーズが入るので、ピザのような感じがせんでもない。

毎日夜の8時半くらいから深夜まで営業している屋台だそうだ。おそらく家族経営で、てきぱきとそれぞれが役割をこなしている。

注文が入ると、お兄ちゃんが大きなトラジューダの生地にアシエントという豚の脂と、ペースト状のフリホーレスを手際よく塗ってくれる。塗り終わったかと思うと、赤いサルサを大きな匙ですくってぽたぽたとまんべんなくふりかける。匙を置くなり、チーズの袋に手をつっこんで、今度はチーズをぴゃぴゃぴゃっとふりかける。「おおっ」と見とれている隙もなく、別の手ですばやくキャベツの千切り(よりちょっと太い)をふりかけて隣のおばちゃんにひょいと渡す。おばちゃんはその大きなトラジューダを二つ折りにして炭火焼の網で焼き始める。炭コーナーには、もう一人「肉担当」のおばちゃんいて、注文が入った時点で肉をすでに焼き始めてくれているので、トラジューダはその横でペアになって、もうどうにでもしてくれと言わんばかりにひっくり返されて調理されている。焼きあがったものから二つに切り分けてられて、セルビジェータ(紙ナプキン)を一枚敷いて皿に盛りつけて、気がついたら自分の手元には巨大なトラジューダが乗った皿がやってくる。

この手際の良さは、美しいと呼ぶに値するくらいに無駄な動きがなくて、日本のものでたとえるなら御座候(今川焼??)とかたこ焼き屋さんとかそういうのを思い出す。そう、ずっと見ていても飽きない。

このお店は本当に人気店らしく、私たちが注文した後もひっきりなしにお客さんが押し寄せていた。その人たちをしり目に、できたてほやほやのトラジューダをみんな無言でほおばる。大きすぎて食べにくいったらありゃしない。しかし、口に運ぶと、炭火で香ばしく焼きあがったトラジューダがパリッと音を立てて割れる。トラジューダの中はじゅわ~っとアシエントがとけてそれが具と絡んでおいしいのなんの。

屋台の帰り道は心とお腹がほくほくうれしい。だから屋台が好きだ。

(トラジューダ、普通サイズと特大サイズがあるらしい。写真は特大サイズ。私の手の2倍くらいの直径があった。)

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