惚れています。


気がつけばもう11月も下旬。うそやろう、と思わず叫びたくなるはやさである。しかも、ここメヒコでは11月でもカーディガンくらいで過ごせてしまっているものだから、冬だという感覚が薄い。だから、今年もあと1か月とちょっと、なんて言われても全くぴんと来ないのである。

オアハカの死者の日はとてもとてもおもしろかった。グアダラハラにいた頃よりも、もっと盛大で、もっと伝統的な方法でお祝いされているような気がした。しかし、お祭り感が半端なく、これって何のお祭りやったっけ?!と一瞬忘れそうなくらい音楽を鳴り響かせて踊り狂っている人たちがいた。

私も、死者の日とちょうどかぶるようにして、とあることにはまっている。オアハカにて、版画にはまっているのだ。きっかけは、たまたま入ったコンベンションセンターで見つけたワークショップ。

本のアート、と題されたその展示は、古い印刷技術の紹介と、ワークショップの空間になっているのだが、そのワークショップは無料で開放されていて、来場者が気軽に版画を楽しめるようになっていた。

じいっと見ていると、「ワークショップしたい??」と声をかけてもらい、参加することに。ワークショップなどの守りをしているのは、芸大の学生さんや先生たち。彫刻刀で版画をするなんか、本当、何年振りだろう、と思いながらちまちまと彫っていく。しかしその手がなかなか進まない。というのも、私が日本人で珍しいということから質問攻めなのだ。日本に興味を持ってくれることはありがたいことなので、答えたり、逆にスペイン語のことを教えてもらったりしていると、作品は一向に完成せず、他の来場者が1日で完成させて帰っていくところ、私は何日も通ってようやく完成。何日も通っているうちに「明日も来るやろう??」と言われるようになり、「もちろん~!!」と言いながら、週2回が週3回に、そのうち週4回にと回数が増えて、顔見知りも増えた。

この版画ワークショップを見つけた前後、仕事でかなり打撃を受けていたのでこの「もくもくと彫る」とか「しょうもない話でけたけた笑う」というのに本当に救われた。そして、純粋にこういう作業をするのは好きなので楽しくて、気がついたら毎日通っている始末である。一つの作品が完成すると、今度は大きな板に挑戦させてくれたり、見たこともない技法の版画を体験させてくれたり、せっかくなので差し出されたものにはすべて挑戦させてもらって今に至っている。

芸大の子たちはさすがにうまい。絵もうまいし、テクニックもある。口を開けば冗談ばかりだけど、彼らの作品を見せてもらうと、ほんまに口があんぐり。作品も素晴らしいけど、私は彼らが作業している様子を見るのがめっちゃ好きだ。彫刻刀を握れば真剣だし、道具の扱う所作がとても丁寧で美しい。

中でも、1人めちゃくちゃ職人肌の青年がいるのだけれど、彼は本当にすごいと思う。何がすごいかというと、観察する力がすごいのだ。一番驚いたのは、独自の方法で鶴を折っていたことである。ワークショップに他の日本人が来て、折鶴を置いて行ったそうだ。その折鶴をずうっとじいっと見て、完成した状態から一つずつひらいていって(つまり逆再生)で折り方や折り目を記憶して、そして鶴を見事に再生させるのだ。日本人の私からしたら「なかった発想」としか言いようがない。鶴はこうやって折るものと思って、そしてその方法しか知らずに今まで何百羽と折ってきたから、見たこともない方法で同じものを再現したその観察力に思わず舌を巻いてしまった。日本語を教えてと言うので、作業しながら日本語のフレーズやひらがなを教えると、すぐに実践してくるので、これまた驚きである。そして天然なのかなんなのか、自分の年がいまいちわかっていなかったらしく、生まれ年がひつじ年だったので、「来年24歳やろ??」というと「え?!25歳になると思うけど……」と沈黙の後、「あ、ほんまや。来年24や。今年24になったかと思ってた」と……。何なんだ、君は!!!

彼以外にも、そういう才能の塊のような人がたくさん集まっていて、知り合う人知り合う人、本当に面白い人ばかりだった。ワークショップのところも、来場者だけではなく彼らも空いている時間に自分の作品をつくったりなんだりしている。やってみたいことを試みて、印刷して、また次の作品に取り掛かる。そういうのを見ていると、ああ、いいなあ、と思う。自分が好きなことをひたむきに、まっすぐ取り組めるのはとても幸せなことだと思う。そして、表現の方法を持っているということは本当にすてきだと思う。

そりゃあうまく絵を描く技術があればなぁ、と思う気持ちもあるけれど、私が作った作品を見てスタッフの女の子が

「すごくいいなぁ。あなたにはオアハカが、私が見ているのとは違う風に映っているんだね」

と言ってくれてなんかはっとする思いだった。そして、外国人が撮った日本の写真を見たときに確かに私も彼女と同じことを思うということを思い出した。そうか~、私は今外国人か~、と改めて思った。

街を歩いていたら顔がアジア人だから「外国人です」と言いながら歩いているようなもんだけど、目に映っているものはメヒコの人たちと同じなのかと思っていた。でもやはり違うのだな。でもそれはきっといいことだと思う。それを、今回は版画という形でアウトプットすることができると分かって、ただたんに、しゃべり相手ができて楽しいなぁということ以上のことを学んだ気がする。

このワークショップも今週でおしまい。ああ、悲しい。しかし、悲しんでいる暇はない。作りかけのものを終わらせるべく、明日もそわそわしながら仕事をして、その後はダッシュでワークショップに行くのだ!!

コメント