トランジット8時間。

今、カナダのトロントにいる。

年末年始を日本で過ごすことにしたのだ。本当なら、もっと乗り継ぎが少なくてスピーディなルートの航空券を買いたかったのだが、なんせ、直前で買ったもので目ぼしいものは軒並み値上がり。そんな金額はとても出せないので結局トロント経由という便になった。西を目指しているのに、いったん東に行くというとても遠回りのルートである。しかも、オアハカから飛行機を使うとひっくり返りそうになるくらいにこれまた金額が跳ね上がるので、DF(メキシコシティ)まではバスで行くことにした。

どうせトロント行の便は夜の24時前。昼間にオアハカを出発すれば十分、と言うことで12時半のバスに乗った。オアハカからDFまではせいぜい6時間、かかっても7時間というのが相場なのに、かかった時間、なんと9時間。絶対運転手のせいだと思う。



私は一番前の席に座っていたので、見ていたのだが、安全運転なのはいいけれどとにかく遅い。そして、後続車にぬかせまくる、そして高速道路の道端で売っているおもちゃのトラックが気に入って途中で止まって購入。マイペースにもほどがある。高速道路の料金所付近で車がスピードを落とすゾーンにお菓子などを売っている人がいるのだが、その人に合図されてはバスのドアを開けて中で販売を許可させる、など、いい人なのはわかるのだが、本当に見ていてイライラが募る運転だった。(まぁ、イライラする前に、高速道路上に一般人が徒歩で入ってきたり、勝手にものを売ってるというのも結構な衝撃だけど。笑)

予定時刻を過ぎても一向に街に突入する気配がないうえに、MEXICOとVERACURZという分岐点でMEXICOじゃない方を選択してがっらがらの道を爆走し始めた時にはさすがに、「何しとんじゃーーーい!!」と思い、不安も募り、「あの~、目的地には何時ころに着くんでしょうか」と尋ねてしまった。すると、「最短でも夜の8時半」とか言われたので唖然とした。というのも、6時半、遅くとも7時にはつくだろうと踏んでいたからである。その時間ならまだメトロなどにも乗れるだろうと思っていたのだ。荷物も多いし、外国人だし、女だし、DFだし、夜だし、と色々と気に掛けなければならないことは多いのだ。

それなのに、8時半とか言い出すので、そんなばかなと「でも、カウンタの人が7時までには着くっていってた」とつついてみると、「8時間はかかるよ」とか言われてしまい、こんな運転の中起きていてはもし着かなかったら、もし飛行機に乗り遅れたら、という最悪のシナリオばかりが頭の中をよぎるのでもう寝ることにした。最後にふて寝して起きると車の数が激増していて、隣にはメトロが並走していたので心底安心した。

すると、「おい、何時に着くんだよ?!」と私が言いたかったことをずけずけと言っているおばさんが現れた。彼女もまた6時半にはつくと思っていた一人で、9時に別の街へ出発するバスのチケットをもう購入済みとのことだった。「知らねえよ。街は渋滞だし、ホリデーシーズンだからそんな早く着かねえよ。」と運転手は開き直り。何じゃこいつはーーー!!久しぶりに、ろくでもないやつに出会った。

バスがターミナルに着くと、血相を変えた兄弟がもう一組いて、彼らもまた乗り継ぎのバスに乗り遅れるかもしれない、と言うぎりぎりの状態の人たちだった。こんなにも焦っているというのに、そしてお金が絡んでいることなのに運転手は我関せずで、預け入れ荷物も開けようとしない。これには本当に、腹が立った。でも、ぎゃーぎゃー言っても仕方がないので(事態が好転しない、と言う意味で)、さっさと自分の荷物をひっぱり出してターミナルを駆け抜けた。

最悪、高いけどタクシーを使おうかとも考えたけど、バスに乗っていて交通状況を見たら渋滞がひどく、高いお金を払ったのに間に合わなかったという事態にもなりかねなかったので、もうとっぷりと日は暮れていたけれどメトロで行くことにした。

こういう時に生きる、と言うか、役に立つのはやはり経験と笑顔だなと感じた。というのも、DFの乗る手バスターミナルから空港までメトロで実際に行ったことがあったのだ。だから、こっちで合っているという自信があった。そして、肝心なところは人に聞いたり、同じくでかい荷物をもって空港へ行きそうな人たちに声をかけたりしてにっこりとほほ笑む。すると、「あ、あいつ空港に行きたいのか」と気をかけてくれる。でかいスーツケースでえっさほいさと階段を上がっているとすっと手伝ってくれるおっちゃんがいたり、空港に行きたいのを察してくれた男の子がわざわざ空港の駅に着く直前で「ここで降りるんやで」と言いに来てくれたり、やっぱりやさしい人もいるもんだと感謝しながら空港駅に到着。ああ~、見覚えがあるーー!!と思いながらも、気がついたらチェックインの時間にぎりぎりなので、ダッシュでターミナルを駆け抜けた。メトロの駅とチェックインカウンタがあるところは本当に端と端で、参った。

なんとかチェックインをすまし、今度は飛行機でトロントへ。5時間で到着。地図で見た時のオアハカ~DFの距離と、DF~トロントの距離感と実際にかかった時間を交互に頭に思い浮かべてげんなりした。いやぁ、すごいなぁ、飛行機って。

運転手には怒っているが、バスの旅がいやだったかと言うとそれは違う。むしろ、久しぶりに長距離のバスに乗って、やっぱり地を這う移動の旅はいいなと再確認した。時間はかかるし、今回のように後ろの予定が決まっていたらやきもきしなければいけないのでそこがちょっと難点なのだが、やはり移りゆく景色を眺めるのは言葉を失う。(あるいは絶叫に値する。)

前回DF~オアハカを移動したときは夜のバスだったり飛行機だったので間の景色を知らなかった。なので今回、一本の棒のように映える無数のさぼてんが山ににょきにょきと数千、数万生えている一帯を通り抜けたときは本当に驚いた。山々が重なる景色が続いていたなと思ったら、急に岩肌が目立つ地形に変わり、そこに針山が現れたのだ。ごつごつした山肌にとげとげの緑のさぼてんが目に飛び込んできたとき、思わずぎょっとした。そして、ああ、まだまだ知らない景色が世界にはたくさんあるんだろうな、と思った。ぐうすか寝てないで、ちゃんとその景色を見ることができて旅の面白さを噛みしめることができてよかった。



そして、トロントでの8時間のトランジット。8時間も待つなんて、と最初はぎょっとしたが、この空港はWi-Fiの環境がめちゃくちゃ整備されていてかなり快適に過ごせている。出発直前に急に風邪をひいて、熱がでたり、会わなければならない人にあったり、ワークショップに参加したり、ちょっと詰め詰めで息つく暇がないような日々を過ごしていたので、ゆっくりとメールをチェックしたり返したり、あるいはゆっくりコーヒーを飲みながらぼんやりとすることができたのでとても有意義な8時間になった。やっぱり自分は時間をゆっくり使うのが向いている、と言うか、そういう時間がなかったから体調を崩したのだろうか、とも思いつつ。まさか、トロントでリセットするとは思わなかったけど、一区切りついたな。さぁ、バケーションの始まりだ。

そうこうしているうちにボーディングの時間が迫っている。

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