ひさしぶりの冒険

「今度の日曜日に、モーレの作り方を習いに行くけど一緒に来る??」

とせっかく誘ってもらったのにもかかわらず、ミスった。というのも、行きたいとは言ったものの予定がちゃんと決まったら連絡すると曖昧な返事をしていたのだ。そして、一応前日の夜にメールはしてみたがたぶん遅すぎたのか返事はなく、とりあえず不確定だった待ち合わせ場所に向うも、遅刻して到着。

……誰もいない。

メヒコ人の友だちなら、10分15分くらい遅刻しても不思議はないけどアメリカ人である。絶対についているに決まっている。そうだ、もう来ないと思われて置いていかれたのだ。この時間の感覚は本当に気を付けないとな、と思う。しかもどれだけ遅れていくにしてもあんまり「遅れます」とかの連絡もしないので、日本でこれをやったら確実に人に不信感を与えてしまうだろうな、と思う。分かっているのに、待ち合わせ時間になってもまだ家にいるということが増えている。……慣れとは怖いもんだな。

とりあえず、連絡だけはしておこうと思い携帯でメッセージを送る。まだわりに近くにいたらしく、すぐに折り返し電話をくれた。でも、うまく落ち合えそうになかったので今日は遠慮しておくと断り、歩き始めた。

日曜日の午前中にうろうろするのは久しぶりのことである。でも唯一の休みの日でもあるので、このまま家に帰ってまた寝ようかな、とか考えながら日陰を求めて歩いた。最近はぐんぐん気温が上がってきているので、日なたを歩くのは暑いのだ。


せっかくなので散歩もして帰ろうと思っていると、豚を見つけた。この間歩いていると見つけた豚だ。この前みつけたものはもう少しサイズが大きくて、頭の上に「?」マークがつけたされていた。今日見つけたのはステッカータイプで、誰かに赤く塗りつぶされていた。

オアハカでは、いたるところにストリートアート(落書きも含む)を見かける。同じ絵を違うところで見かけるときもあるので、その時は「あ!」と思う。


もう少し歩くと、また豚がいた。今度はこの間見かけたのと同じく大きなサイズの豚で、相変わらずふてぶてしい顔をしている。私の歩いていた道と、豚のアーティストの足取りが同じなのが面白くて、もう少し歩くことにした。


すると、またいた、豚!!ということで、なんかだんだん楽しくなってきて、休むことばかり考えていた自分をしょうもなく思った。いつのまにかにやけてきて、これは家になんか帰っている場合ではないな、と思いその足でコレクティーボ乗り場に行くことにした。

友だちと合流するためではなく、ひとつ行ってみたい場所があったのだ。先日、アレブリヘの歴史を調べていたのだけれど、意外にも歴史が短くて、しかもなんかまだまだ過渡的な性質を持っていてすごくおもしろかったのだ。そして偶然にも、一昨日くらいにたまたま入った店のアレブリヘがめちゃくちゃユニークで見たことないから思わずお店の人に「これ、どこのアレブリヘですか?!」と聞いたのだ。すると返ってきた答えが、3つほどアレブリヘで有名な村があってその中の聞いたことのない1つの村で作られているということだった。他の2つの村は結構ツアーの行き先にも組み込まれていたりして、行ったことはないのだけれど行き方はわかっていた。でも、このタイミングも何かの縁だと思い、その謎のもう1つの村に行ってみることにした。

コレクティーボ乗り場で、行きたい場所を告げると「う~ん、アレブリヘで有名??だったか??んんん??」と険しい顔をされ、すかさずほかのコレクティーボ仲間を呼びつけてミニ会議が始まった。

「あそこじゃねえか??」
「こいつは勘違いしてるんではないか??」
「俺がその村までチャーター便として連れて行ってやろう」

など、など。

私がなかなか首を縦に振らないので、みんな散り散りになっていったところに、私がスペイン語が分からないものだからコレクティーボに乗り込まないのだと思って英語でしゃべりかけてきたおっちゃんがいた。それに対してスペイン語で応答しても、たいていこのタイプの人は英語でしゃべり続けてくる。別にそれは構わないけれど、外国語ができるのでとても親切で、自分のコレクティーボに誘導するのかと思いきや、私が行きたいと思っていた村出身のコレクティーボの運転手の人に「お前連れてってやれ」と話をつけてくれた。

途中の村まで行って、そこからさらにコレクティーボを乗り継いで行けとのことだった。途中で他の乗客が下車し、私がポツネンと残った。それからは運転手の男の子(ロドリゴくん)が話し相手になってくれ、周辺の地理のことや、Sector、Municipio、Agenciaの違いを説明してもらったりした。色々自治区に呼び名があるみたいで、どれがなんだかよくわからなかったので、すごく勉強になった。終着点につくとロドリゴくんは、

「おれ、アレブリヘの作っている家知っているから、そこまで乗せていってやろうか?その分お金はもらうけど。それか、時間でチャーターしてくれたら家々を回るけど。」

と提案してくれた。時間でチャーターすると結局タクシーを捕まえたのと一緒のことになってめっちゃ高くつくからちょっとなぁ、と思い、Agencia(公民館のようなところ)に行ってアレブリヘの作家さんの名前を教えてもらって、それから知っているというアレブリヘの作家さんのお家に連れて行ってもらいたい、その先は自分で探す、という条件でその提案に乗ることにした。

▲こんな感じ。こりゃ、1人で探すなんて、無理じゃんか。


その村は私が想像していたのとは全然違い、丘全体が村で、丘の至る所に家が点在していた。お店などはあるわけもなく、アレブリヘを作っている人たちはみんな自分の家で作っているとのことだった。まずは公民館に行って、作家さんの情報を聞き出す。

写真の通りの事情なので、1人で探すのは無理だということになり、結局全部連れて行ってもらうことになったのだ。ロドリゴくんは、さすが地元というだけあって道も詳しいし(舗装されてない道ばっかり。)、わからない家についても他の家の人に訪ねてちゃんと連れて行ってくれた。


ああ、なんて頼りになる運転手。そして彼は若干22歳。usted(スペイン語の2人称は2種類あって、「君」という呼びかけと「あなた」という呼びかけ方がある。ustedは後者。)でしゃべってくれ、教会の前を通るたびに十字を切るとても礼儀の正しい青年だった。コレクティーボ乗り場でよく彼に出会ったものだと、拝む勢いで彼の背中を見つめるのだった。移動中、

「雨期になると緑がいっぱいでもっときれいになるよ」

とか、村のお祭りについて教えてくれた。日本のこともいろいろ聞かれたので、新幹線とか交通事情について話すと、「へぇ」ととても興味深く聞いていた。1日15時間くらい働いているというのを聞いて、週6も働かないといけない状況にぶうたれていた自分を恥ずかしく思った。ああ、生きるって、生活するって大変なことなんだな、と改めて思った。

そして、出会ったアリブリヘはどれもユニークで面白いものばかり。この村では、ほとんど同じ家系の人たちがアレブリヘづくりに携わっているとのことだった。しかも、量産はされておらず受注を受けて作るというレベルの高いものだった。ああ、どうりで見つけたものはユニークで質が高いと思った……!!突然の訪問(しかも家に。)だったのにもかかわらず、どのお家もいやな顔もせずむかえてくれ、手持ちの作品を見せてくれたり、また話しを聞かせてもらったりしてめちゃくちゃ貴重な訪問になった。それもこれも、ロドリゴ君のおかげ。連絡先を聞くのを忘れたけど、次あの村に行くときもぜひ彼のコレクティーボに乗りたい。

槍はなんと取り外せる。そして、後付けのしっぽの角度が絶妙~~!!めっちゃツボ。しかもカップルになっていて、肩を組んで踊っているのです。

あるお店で見かけたこのシリーズのアレブリヘに私はメロメロになってしまったのです。動物が本を読んでいるシリーズ。本の中身も面白い。これは「オレ、おまえよりはマシ」。作り手のおっちゃんが考えているらしい。めっちゃ面白いですね!!というと、はにかんでいた。

どの作家さんもたぶん有名な人ばかりっぽかった。作品の面白さが物語っている。牛のお腹にビルヘン(聖母)!!う~ん、自由だ。何かをつくるって、素晴らしい!!と改めて思わされる作品の数々。このおっちゃんは、"pues... cómo se llama??"(ええっと、なんつったっけ??)が口癖だった。


久しぶりになんか一人で冒険した気がする。最近、怠け根性ばかり出て、のんびりすることばかり考えていたけど、やっぱり出かけていろんなものを見なあかんなと思った日曜日だった。

そして、丘が緑になるころにはまた絶対に訪れようと思う。今から楽しみだ。


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