豚をめぐる冒険

さかのぼること1ヶ月半。

オアハカの道端で豚を見つけた。おもしろいなぁ、と思い何気なく写真を撮ったのだが、それ以来、豚がそこら辺にあふれていることに気がついた。今まで全然気がつかなかったのに、豚に注目して街を歩くようになってから逆に豚にしか目がいかないという……。視点を変えただけで、また街を歩くのがこんなにも面白くなるなんて、やっぱり、新しいことを発見することは生活を豊かにするなぁ、と思った。

せっかくこんなにも豚が見つかっているのだからということで、Instagramに「1日1豚投稿」を開始した。ハッシュタグ「#豚をめぐる冒険」をつけて。そして、いつか「豚」を張り付けている人を見つけられたら面白いだろうな、と思った。そして、「なんで豚なんですか??」ということを聞いたり、あわよくばステッカーを1枚プレゼントしてもらえたらいいなぁ、なんてむしのいいことを考えていたのだ。

おもしろいことは人に教えたくなる性質なので、ある日友だちに豚の写真の話をしながら街を歩いていた。そして、「街のこういうところに貼ってあるねん。ここにはないけどな~」と説明していると、男の子に声をかけられた。最初は変な人に声をかけられているものだとばかり思い無視していると、

「おい!!お前ら、ステッカー見てたろ?!」

とステッカーを指しだされた。そのステッカーは豚のステッカーを撮りながらよく見かけていた別のステッカーだった。「うぁあああああ!!!」と大興奮で男の子に、「あたしこれ知ってる!!」と言うと、

「これ、おれが貼ってる!!」

とのこと。そして、豚のステッカーを追いかけていることを告げた。すると、

「ああ、それおれの友だちやで」

と、豚のステッカーの正体が「マリオとダニエルと、その他2名」だということを教えてくれた。


すごいなぁ、こんな偶然あるものだなぁ、と思いながら興奮冷めやらず一緒にいた友だちときゃっきゃとした。

すると数日後、別の場所でその男の子とまた偶然出くわし、「あ、そうそう、豚の話やけど、彼らのグループの名前は"la mesa puerca"っていうから」と教えてくれた。

そんなサプライズがありつつも、街を歩くときは豚に気を配り、そしてとりだめた写真を1日1投稿を続けていた。Instagramにそのほかのハッシュタグもつけていて、#pig #pink #streetart #streetartoaxacaなどがそうなのだが、どれに引っかかったのか、ある日オアハカのストリートアーティストと思われる人物からコメントが寄せられた。なぜそれがオアハカのアーティストだと分かったのかというと、彼/彼女のステッカーを同じく道端で見かけたことがあったのだ。

Facebookのページへのリンクが残されていて、アクセスしてみると"La Mesa Puerca"となっていた。ぶ、豚の集団のページや!!

そして、「豚の写真を追いかけています」というコメントでも残そうかと思ったけど、それはなんか違う、と思ったので(あくまで道端で発見するのがかっこいいと思ったから。)、ページに"LIKE"だけ残しておいた。

そうしてまたある日、フレンドリクエストが来た。名前は「ダニエル」。共通の友だちを見ると、この間豚の情報をくれたあのステッカーをはっている男の子。

「ぶ、ぶたや!!!」

そう、私は自分が追いかけたと思っていた豚に見つけられたのだ。こんなことがあるものなのか、と驚きながら承認すると、豚の絵文字が送られてきた。これはもしかするとほんまにいつか会えるのではないかという予感に満ちてきた。そして、続いて「マリオ」という人からもフレンドリクエストが届いた。豚の一味である。

私が豚の写真ばかりを投稿するので、オアハカ以外の友だちには「なんでそんなことしてるん??」と尋ねられ、オアハカの友だちは「あそこの道にも豚あったで。写真撮りに行ったら??」と情報をもらえるまでになっていた。

同じ町に住んでいる人はめっちゃくちゃたくさんいて、おそらく彼らも同じ道を通っているだろう。でも、それを証明するすべはない。豚がそれを可能にしてくれて、あったこともない人がここにいて何かを感じたんだ、という存在感を確認できるのはとても奇妙で不思議な感覚だ。

豚のシールは増殖を続けている。そして、私の写真のストックは増えるばかりだ。だからFacebookやInsgargamに投稿している写真はタイムラグが生じている。最初は、そのうち投稿しているのに追いつけるだろうと思っていたけど現実には全く追いついていない。



でもどうしてもこの衝撃な事件を記録しておかない手はないと思ったので、今ブログに長文を書いている。

セマナサンタ(イースターホリデイ)で、友だちが遊びに来てくれていた時のこと。にぎやかな街を2人でぶらぶらとしていると、前から豚のステッカーを服に付けた少年が歩いてきた。

歩く豚!!!

これは初めてで思わずでかい声が出た。「豚が動いてる!!」

そして、少年に近づいて、

「このステッカー、どこでもらったん??」

と聞いてみた。すると、

「もらってないよ。向こうの柱に貼ってあったから、剥がして自分にくっつけた」

とのこと。なんと!!!豚と彼に直接コンタクトがあったわけではなかったけど、私以外にもこの豚にひきつけられている人がいたことが驚いて、そしてそのステッカーを付けてうろうろしている現場に出っくわしてものすごく興奮してしまった。やはり、目で受ける衝撃はでかい。特に、見えないはずのものが見えた時のインパクトはすごいなぁ、と思った。友だちに「いやー、すごい。すごいわ。まさかこんな豚ステッカーに出会うとはなぁ~」と鼻息も荒く感想を述べながら、「今日はええ日や」と街を歩いた。

しかし、これだけではない。「引き」の強い日というはどうも存在するようだ。その日の晩のこと。

また道をうろうろ歩いていて、民芸品市を覗いてめちゃくちゃ気に入ったお店の人にペンダントをプレゼントしてもらってかなりにやけてうふふと歩いていたら、友だちが一人のメキシコ人の男の子が自転車で近づいてくることに気がついた。そして、

「●●!!」

と、私の名前が呼ばれた。んんん??と思い振り返ると、知らない男の子。そして、男の子はおもむろにパーカーのポケットからあの「豚」のステッカーを出してきた。

「あああああああああああああああああああ!!!!!!!」

と、半分叫ぶように驚いて、

「き、きみは、マリオくん?!」

と聞くと、

「そうやで!!」

と笑った。

すげーーーーーーーーーーーー!!!!!!ついに、豚に道端で見つかった。連絡先も分かっていたので連絡と約束を取り付ければ会える状況までになっていたけど、道端で偶然に遭遇するというのは私のこの「豚をめぐる冒険」において最高の事件ではないか。私は興奮しすぎて何をしゃべっていいのかよくわからず、とりあえず「すごい」を連呼することしかできなかった。

そして、ポケットに入っていた豚のステッカーを私にくれた。


事実は、小説よりも奇なりやなぁ、ほんま。

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