チャリンコで街を駆け抜ける


オアハカでは、毎週水・金・土の週3回、『チャリンコで街を走ろう!』というイベントが開催されている。その存在は知っていたのだけれど、まず第一に「チャリンコを持っていない」ということで参加したことがなかった。

ところが、先日友だちのお父さんが「使っていないから自由に使っていいよ」とチャリンコを貸してくれた。なぜかYAKUZAというステッカー(しかもデフォルトで。)が貼られているマウンテンバイクである。返すつもりでそのチャリに乗ってお家にお邪魔して、自転車を置いて歩いて帰ろうとすると、

「おい、チャリンコ忘れてるぞ!」

というので、

「え?!借りてていいんですか?!」

とそのまま乗って帰ってきてしまった。ということで今、念願のチャリンコ持ちである。チェーンを持っていないので、どこかに乗っていって駐輪することができないので、基本的にはチャリンコに乗ってひとっ走り、という感じで使っている。仕事から帰ってきてチャリンコにまたがり、小さな素材屋さんに行ってみたり、気になっていた道を走りに行ったりである。

オアハカは小さな町なので、徒歩の移動でも事足りる。特に困ったことはなかったのだが、このチャリンコという新たな脚がなんともまぁ、おもしろい。いつもてくてく歩いていたところをピュンっと風を切って走り抜けたり、だいたい何分くらいかかるだろうな、と見積もって歩いていた距離が何分の一かの時間で到着してしまったりするので非常に楽しい。

やたら折り紙が上手なドイツ人の友だちがいるのだけれど、その子が

「暇やったらチャリンコナイトに参加しよう!」

と声をかけてくれた。そして土曜日、YAKUZAチャリンコで記念すべき初参加を果たしたのだ。

夜の9時に集合して、小一時間街を走るというイベントで、集合時間が近づくとわらわらとどこからともなく自転車にまたがった人たちが集まってくる。自転車を持っていない人も主催している団体のところで自転車を借りられるので、観光客でも気軽に参加できる。

ここはメヒコ。時間通りに始まるはずもなく、友だちと合流して出発の時を待った。しかし、ここはオアハカ。待っている間に結婚式のカレンダが始まって、回転爆竹がさく裂し始めたり、空に花火が打ちあがったりしていた。本当にお祭りの街だなぁ、と感じる。


そんなショウを楽しんでいると、どこからともなく大きな音楽。ふと先頭をみると、大きなスピーカーを積んだ大人用三輪車にまたがった人が

「いくぜ~~!」

というようなことを言いながら、緩やかにチャリンコナイトが始まった。歩行者天国の通りから開始するので、のろのろとした出だしである。そこにスピーカーからでかい音楽が鳴り響き、道行く人たちは、なんだなんだという感じでチャリの集団を見守っていた。

何度か右折や左折を繰り返し、走りやすいアスファルトの道に出た。(オアハカのセントロは、石畳の通りも何本かあるので、見た目は美しいけど、歩いたり自転車で走るには少し厄介である。)さぁ、通行人もいなくなったしこれからはぐんぐんとスピードを上げていくのかなと思いきや、あがったのは音楽のボリュームで、ペースは一向に上がらない。でも、夜の街を自転車で駆け抜けているという事実は、わくわくした気持ちになるのには十分だった。たまに誰かとぶつかりそうになりながら、友だちと「あ、あんなところにおいしそうな店がある!」とかなんとか話しながらバイクライドを楽しんだ。

集団の中には何人か主催者側のスタッフもいて、曲がったりする際などは参加者がルートを外れないようにきちんと誘導してくれる。列の最後にもスタッフがついていてくれて、さらにその後ろは警察のバイクが2台ほどついてきてくれていた。ちゃんとオーガナイズされていて驚いた。

街灯のある道や、街灯の無い道をのろのろとみんなで走っていく。大きな音楽の音を聞きつけて、近隣の人たちは沿道に出てきていた。そして、子どもたちは音楽に合わせて踊ったり、2階のバルコニーから手を振ったりしていた。

基本的に、自転車が最優先になるので、自転車の走っているあとを車がのろのろついてきたり、ルートを変えて迂回してくれたりしていた。ルート上にあらかじめコーンなどが建てられてあるわけでもないので、どういう仕組みでチャリンコがこんなにすいすいといけるのか不思議だ。

途中、バスの基地周辺や、売春婦街などを通り抜けた。売春婦街に関しては、話には聞いていたことがあったけど、夜は通ったことがなかったので等間隔に並んで客引きをしている彼女たちを初めて見た。暗がりの中、ぴちぴちの服を着て、高いヒールをはいた人たちの目の前を、大音量の三輪車を先頭に老若男女、タンデムチャリンコなんかもある愉快な集団が通りすぎていく様子は、なんなんだろうこれは……カオス!!、と第三者的な立場で感想を持たずにはいられない。さらに驚くべきは、その同じ沿道に子ども連れの家族がチャリンコの集団に手を振っていたりする点である。何でもありか……?!

さらに進んでいくと、三輪車のスピーカーをはるかに上回る大音響がどこからともなく聞こえてくる。どこかの家でフィエスタ(パーティ)が開催されているのである。ちなみに、その時点で夜の10時を過ぎている。

自転車が道を占領して、そして爆音で夜に通りすぎていく。それを許してくれるこの国はつくづく寛容だなぁ、と感じてしまう瞬間だ。

日本だと、やれ騒音だ、やれ安全だなどと言って、クレームの嵐になりそうな気がする。しかもそれが週3のペースとなると、近隣住民はたまったものではないだろう。そういうことをぐるぐる考えていて、ふと、

「日本やと、こういうことはできひんと思う」

と友だちに言うと、

「ドイツも無理な気がする」

という返事だった。週3というかなりの頻度でこれを開催しているオアハカってすごい、というのが率直な感想だ。最低限のルールがあり、その中でみんなが楽しみ、その他の人もそれをありのまま受け止める。そういうゆるさと自由さは本当に素晴らしい。こういう目に見えない(いい)点は国の外に伝わらないからそれを残念に思う。メヒコやオアハカに魅せられている人たちには同じ気持ちでいる人は多いのではないだろうか。そんなことを話し合っていると、

「チャリンコライド、楽しんでるかい~~??まだまだいけるのかい~~??疲れてないだろうな~~??」

と先導の三輪車男がみんなに問いかける。それに他のみんなが「うお~」と答えると、

「じゃあ、クンビア(音楽の種類)かけて、まだまだ行くぜ~~~!!」

とスピーカーのボリュームを上げた。ペダルをぐっと踏みしめると、夜風が気持ちよかった。

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