価値観

今日は暑かった。

去年の今頃って、こんなに暑かったっけ……??と問うてみるも、覚えていない。きっとそんなものだ。夏になれば冬の寒さを忘れるし、冬になれば夏の暑さのことはもう覚えていない。

今日はメルカードに行った。少し離れたところにある大きなメルカードだ。野菜や果物が抜群に安いので、一週間分を買いに行ったのだ。ついでに、木を切る糸のこかミニのこぎり的なものがあればそれも買おうともっていたのだ。

残念ながら、のこぎりは巨大なキコリ用みたいなものしか売っていなかったので断念。薄い合板を切るためにほしかっただけなので、おとなしくカッターを使うことにしよう。こういうちょっとしたものを手に入れようと思った時、日本の100均は本当に便利だなと思う。よく使う道具などはいいものを使った方が絶対にいいけど、「ちょっとあったら便利」「ちょっと試しに使ってみたい」というのは100均で簡単に手に入る。それがいいのか悪いのか、外国に来た時に「た、たっかいなぁ。ああ、こんなもの日本やったら100円で買えるのにな。」と思ってしまうから厄介だ。

ともかく、巨大なメルカードをうろうろしながらのこぎりはないので、さっさと野菜と果物を買って帰ることにした。あれだけたくさんの店やら屋台やらがあるけど、今回は買いたい店があったのでそこまで向かうことにした。

この間(と言ってももう1ヶ月くらい前になるけど)、日本から友だちが遊びに来てくれていた時に一緒にわいわいと冷やかしに行った野菜やさんがあったのだ。その時は観光がてら行ったので何も買わず、にやにやと店の人としゃべって写真を撮らせてもらって帰ってきただけだった。だから次回はぜひともここで買いたいなぁ、と思っていたのだ。

「やぁ、どうもどうも~」

とあいさつをして、野菜を購入。そのあと、友だちと食べたタコス屋さんの前を通った。すると、おばあちゃんとおじいちゃんがいて、

「やだあんた、久しぶりじゃないのさ~!」

としばらく立ち話。タコスを食べていけと言われたけど、ちょうど食べたばっかりで満腹だったので断念した。

野菜やのおっちゃんの照れた感じのはにかみとか、タコス屋のおばあちゃんの私の話にほげぇ~っといちいち驚く様子とか、こういうことは鮮明に覚えているから不思議だ。

どうせ同じものを買うのなら知っている人から買いたいなぁ、と思う。私のこだわりというか、価値観である。

この間書いた「ゲラゲッツァグラフィカ」のイベントに、パコくんがいた。パコくんは、私が追いかけていた「豚」を見つけるヒントというかきっかけをくれた子なのだが、彼自身もグラフィックアーティストとして活動している。コンピュータグラフィックや、シルクスクリーンなどを主にしていると同時に、街の中にステッカーをはっている。宇宙人のような、ばい菌のような感じのデザインで、The Pixelisというプロジェクトだそうだ。

あれをめっちゃ街に貼っているのは知っていたけど、なんであのデザインなのかとか、そういうのはじっくり聞いたことがなかったので時間があるのをいいことに聞いてみた。すると、デジタルで作ったものというのはどれだけ解像度を上げても絶対にピクセルという単位からは逃れられなくて、すべてのものはそれの集合体で、ピクセル自体は何の意味も持たないのに集合することと、人の目を通してみることでそれが何かの形に見えてしまうからそれが面白い、というようなことを話していた。パコくんのほかの作品には、メキシコの元大統領のベニートフアレスがモチーフになったものもあるけど、ピクセルであらわされたベニートフアレスは、彼を知っている人が見れば一目瞭然なのだが、彼を知らない人が見たらおじさんに見えるかもしれない。視覚的創造物に意味を付けているのは人間自身なのだ、と話していた。

普段街で見かけるステッカーは全部自分でシルクスクリーンを使ってプリントしているらしく、ゲラゲッツァグラフィカの会場で売っていた。彼のThe Pixelisのプロジェクトでもうひとつ、気になっていることがあった。それは、どうやって形をカットしているかということだ。街で見かけるステッカーの形は、全部ギザギザと解像度の低いピクセルのようになっているのだ。シートにプリントしてから、こんなふうに切ってくれる機械があるものだとばかり思っていたのだが、「あるわけないじゃん~」とあっさり言われてしまった。





なんと、それぞれのデザインにはプラスチックの型があり、その型に当てて1枚ずつカッターナイフで切っているのだそうだ。

嗚呼!!

なんと果てしなくて、地道な作業。すてきすぎる。ものを作るときに、こういう細部にまでちゃんとこだわって意味がある作品を作る人、めっちゃ好きだ。

いろいろな人と出会うと、いろんな価値観を持った人に出会う。必ずしも自分と同じではなく、だからこそおもしろいのは確かだけれど、ものを作るという点においては、この奇妙なこだわりを持った人に出会うとなぜかものすごく好感がもてて、ほっとする。いや、ものを作る人はだいたいそうだ。だから、何かものを作っている人と出会うと妙にうれしくなる。そして、自分も面白いものを作りたいなぁ、と思う。

備忘録がてら。

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