いかさま師を見た話

7月も終わりに近づき、ゲラゲッツァ月間もいよいよ大詰め。オアハカの町は観光客の量がマックスに達している。そして、私は謎の鼻炎のような症状でおとといから止まらない鼻水と涙に悩まされている。

ゲラゲッツァというとオアハカで一番大きなお祭りで、なんというか、華やかさの象徴のような期間である。オアハカ州の8つのエリアから伝統衣装や踊りなどが集まり、それを披露するのだから気合が入るというものである。

そんなお祭りムードの中でも普通の生活は淡々と続く。観光客が町にあふれかえったって、スーパーに買い出しにだって行かなければならないのである。スーパーの前に夜店がてんこ盛りに並んでいて、その中に射的屋さんを見つけて、マイケルジャクソンがちゃんといるかどうかを確認して、見つけて写真に収めてほっとする。

「ああ、また会えたな、マイケルよ」

という具合だ。

お祭りの屋台のゲームはいたってシンプルなものが多い。ダーツで風船を割るというものもよく見かける。これは、台湾の夜市でも見かけたことがあり、遊んでみたけどなかなか面白い。ただ、メヒコ版の商品が独特すぎて全然遊んでみたい気持ちはおこらないのでいつも素通りだ。


しかし、今回は足がさすがに止まった。

まずは、ネイティブアメリカンの長が渋く片膝を立てて座っている人形が目に入った。その後ろに後光がさしているのかと思いきや堂々と立っているのはライオン。続いてにょきっと顔を割り込ませてくる牛。再び総長に目を戻そうとすると、左に座った総長とほぼ同じでかさという凛々しい鶏、とその後ろにひっそりと身を隠す漫画のようなグアダルーペ。もう訳が分からずドキドキしてきてしまった。よく見ると、早朝の前にはスーパーサイヤ人の悟空までいるじゃないか。

なんなんだ、この世界観。すごすぎる。そして、繰り返すが、こんなにもたくさん商品があるのにそのどれ一つ欲しい気持ちが起こらないという奇跡。

うっかり足止めを食らってしまったが、その先にもう一つ私の足を止めた光景があった。


ロテリアがテーブルの上に並べられていて、その周りにはたくさんの人が集まっていた。おお、こんなところでロテリアをやっているのか、と思いしばし見物を始めた。

ら、どうもビンゴゲームのロテリアをしているようではなかった。

写真奥にある缶バッヂ3つがゲームの主役だった。それぞれのバッヂの裏にはロテリアの絵が描かれてある。2つがメロンで、1つが小鳥だ。おじさんがその3つを入れ替えてどれが小鳥かをあてるゲームである。

おじさんの手にはたくさんの札が握りしめられていることから、そのゲームをするにはお金をかけなければならいということが分かった。

おじさんはものすごいスピードでバッヂを操りながら、人々は裏返った小鳥を目で追う。そして、不意にお金をおじさんに手渡し予想をする。

「これやーーー!!」

と叫び、おじさんがバッヂをひっくり返す。……メロン。

「くそうー!」
とかけた人。そしてオーディエンスからは、おおおおとため息が漏れる。そんなこともお構いなしにおじさんはまたバッヂを操って、「さぁ、次はだれが挑戦するのかな?」と聴衆をあおっていた。

そんなことがしばらく続いていて、後ろのほうからじいっと見ていた。すると不意にかなり気合の入ったおばさんが「これや!!!!」と叫んでバッヂをつかんだ。おじさんが、

「金をかけないとあかん」

とにらみつけた。おばさんは200ペソを放り投げて、おじさんに取り押さえられた手ごとバッヂをひっぺ返した。

小鳥……!!

おじさんは一瞬すごい嫌な目つきをしてから、大きな明るい声で「ああー!やられた!200ペソはあなたのものです!」とおばさんに掛け金の200ペソと、当たった分のもう200ペソを手渡した。

おばさんは鼻息荒く400ペソを握ってその場を立ち去った。

聴衆が勝った、ということで若い男の子が挑戦するもあえなくはずれ。私のすぐ前にいたおじさんが掛ける、外れる。

大金をかけて負けた割にはあまり悔しそうではないのが引っ掛かったけど、その後も熱心にゲームの様子を見守っている。

ふいにおじさんが後ろを向いて私に「かけてみろ」と促してきた。私が見るだけでいい、と断わると、いいから、掛けてみろという。

それでも、スペイン語がわからないふりをしていると、

「マニー、マニー。ドラードラー(USドルのこと)」

と言ってくる。こんな時だけ英語を使ってくるからなんかたち悪いなと思いつつ、それもわからないふりをしてへへ、と笑っていると、

「お金をかけなくてもいいから一回試しにどれかやってみ」

と言ってきた。「いいです」と断ってもしつこく指させというので指をさしたら小鳥が出た。

私の前のおじさんが「俺が500ペソを置くからお前、指をさせ」と言ってきて、その圧に押されて指をさすと、また小鳥。

お前の勝ちだと言って私に500ペソを渡そうとしてくるので、「いらんいらん、私のお金じゃないからいらん」というと、その場にいたたくさんのおじさんたちが「お前も勝てる、マニーをおいてもう一回やってみろ!」という。

いやだ、だってこんな吉本新喜劇のやくざ役が着ているような派手なシャツの軍団、絶対グルでお金を巻き上げているに違いないということがその時にははっきりとわかっていたので、あとはどれだけ穏便に一銭も使わずにその場を立ち去るかだけを考えていた。

その間にも一般人が一攫千金を狙ってものすごい形相で彼らに挑み、サクラが適当にかけ、勝ったり負けたりしていた。

そして私は結局「言語が一切わからない」という設定を守り抜いて、「ノーマニー」「ノーテンゴドラー」みたいなことを言いながらへへへと笑いながらあとずさりでその場を立ち去った。

こんな絵にかいたようないかさま野郎がいるのかと閉口したが、友だちに聞くと都会にはこのような奴がたくさんいるのだとか。オアハカの場合は日常的にはいないけど、お祭りに便乗してやってきているのではないかという。そして、一瞬にしてお金が倍になるというところに目がくらんだ人たちが騙されてしまうのだという。多くは、そういういかさまのことを知らない村などから出てきた人なのだそうだ。

なんてやくざな商売なんだ、と思うと同時に、楽して金儲けをしたいという人間の欲望もしかと見た。楽しい華やかなお祭りでみんながゲームをしたり食べ物を買ったり遊具に乗って歓声が響く何気ないこの一角での出来事だっただけに、そういう闇と欲望の濃度が濃さが強調されて見えたけど、日常の延長戦に華やかさと暗さは存在するんだな、というのを見せつけられた感じがした。

いかさまは日常に潜んでいる。

マイケルと、カオスな人形軍と、このいかさま集団を全部見たのがたった10分くらいというのだから、やはり、メヒコのポテンシャルは計り知れないと思ったのだった。

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